...... 2001年 12月 02日 の日記 ......
■[ NO. 153 ] 曇り
誕生日
12/2、0:00、真夜中。
28年間生きた。

27歳最後の日は、幕張メッセで始まった。エレクトラグライド2001。色とりどりの照明が交差する中、お決まりの4つ打ちビートに合わせて踊り狂う大観衆。いつもながら疎外感を感じる風景だ。気が狂いそうになる。そう感じるのは分かっていたから、行きの電車の中でビールを煽り済み。それで脳内神経の動きも鈍くなって気持ちも落ち着く。大きな会場のLIVEに行くときのいつものパターン。全く、この神経過敏なヘッポコボディーも何とかならないもんかね。

巨大な会場は、ドリンクバーやらフードバーが置かれたSMOKING AREA、ドラムセットが置かれたLIVE STAGE、DJブースのみのDJ STAGEの3つに分かれていて、そこに、HMVが配布したピンク色の蛍光ライトを身につけた無数の音楽好きが蠢いている。僕ももちろんその一人だ。まあいいさ、楽しもう。EVERYTHING GONNA BE ALL RIGHT。

ほどよい酔いの中、HOWIE BのDJ STAGEを後にして、LIVE STAGEでバッファロー・ドーターを観る。前回彼女たちを観たのは4,5年前のイベントだったと思うけど、その時は余り何も感じなかった。でも今回は違った。心地よいグルーヴ、ライブを楽しんでるメンバー。気持ちが和んだ。いいバンドじゃないすか。

そして再びDJ STAGEに移ってFAT BOY SLIMを観る。結婚し、子も産まれ、人生の一つの絶頂を迎えた感のあるノーマン・クックの流す音はともかくハッピー&ラブ。巨大なスクリーンに「KONICHIWA」と書いた紙を持って微笑むノーマンおじさん。いやはや、実にピースフル。ギュルギュル効かせるフィルタっぷりに身体も自然に動いて、NIKEやら車やらとにかく色んなCMに使われまくった曲で昇天。さすが世界ナンバーワンの実力ね、なんて思いながら盛り上がり続ける会場を後にする。何たって、今日の一番のお目当てはエイフェックス・ツインなのだ。


そして12/1、1:20頃、彼は現れた。僕がそれに気が付いたのは、会場に流れていた「音」が明らかに変わったからだ。同じ4つ打ちでも、全く違う存在感とクリアーさ。見ると、エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスがステージ上に居た。机の上にはAppleのibookとpowerbook、そしてミキサー。実にシンプルな構成だった。

始まってしばらくは、多少の毒はあるものの、総じて気持ちのいい音が流れていたような記憶がある。(というのも、途中から頭の中が真っ白になって、あまり前後の記憶がはっきり思い出せないのだ。)45分くらい経った頃だろうか? 心地よいリズムと音に身を任せていると、突然、雷鳴のような高周波の音が連続して鳴り響く。脳みそが直接こすられるような音だ。映画「ハンニバル」のラストシーンがフラッシュバックする。思わず両手を上げて歓声を送る。それが何度か繰り返されている内に、いつしかリズムは4つ打ちから変速16ビート/高速ドラムンベースに変わり、BPMもかなりの速さになっていた(気がする)。首を振るのも大変な状況だ。晴天の野原を歩いていたつもりが、気が付いたら大嵐の海原を泳がされていたような感じ。しかもそれは突然の変化ではなく、とても微々たる変化だから、気付いたときにはもう手遅れなのだ。もう、彼のビートからは逃れられなかった。ノーマン・クックの時のようには会場を後に出来ないのだ。交互に繰り返される、ウォームで美しい音と暴力的なリズム。天国と地獄の風景の繰り返し。脳みそをスプーンですくわれ、自我が粉々に破壊されていく。ステージ上では2人の女性が踊り、僕の隣りでは女性が祈るように手を合わせて身体を揺らしている。もうろうとする意識の中で、こいつは神だ、殺されてもいいと思った。いや、神じゃなくても、シャーマンには違いなかった。そうして2時間のプレイが終了した。リチャードは左手を軽く上げてibookを畳んで会場を後にしていった。


その後、元UNDERWORLDのダレン・エマーソンのDJプレイや、マウスオンマーズを観たのだけど、何も感じることが出来なくなっていた。


音には殺傷能力がある。もちろんそれは超音波レベルのとても高い周波数だったり、非常に大きなボリュームだったりする訳だけど、ある種のリズムでも殺すことが出来るんではないだろうか。少なくとも、非常にゆっくりとした一定のリズムで精神を破壊することは可能な訳だし、ケチャを持ち出すまでもなく、トランスする為に、リズムは欠かせない要素だ。何ていうか、エイフェックス・ツインはそういう殺すか殺さないかのギリギリのところでサウンドを構築してるんじゃないだろうか? と思う。ともかく、非常に危険な音だ(音楽という言葉はふさわしくない)。



いやしかし、これは最高の誕生日プレゼントだった。
誘ってくれた相方に感謝したい。


...... 2001年 12月 06日 の日記 ......
■[ NO. 155 ] 曇り
松屋
待ちに待った松屋の新メニュー『マーボナス丼』(爆)を食べる機会がやってきた!

しかし、なぜにまたマーボナス丼なのか? 牛、豚、鳥ときてなぜここで中華投入なのか? 牛丼屋から中華料理屋へ転身を図る前哨戦か、はたまたベジタリアンバーへの華麗な転身を図る乞食王子か? 突っ込みどころが色々ありそうな松屋の果敢な挑戦。よし、受けて立ってやろうじゃないのよ。真意を確かめるべく、俺は松屋の門を叩くことにした。

マーボナス丼 390円

価格は安いとも高いとも言い難い。まあ、普通。

「ナスいっちょう」

趣味の悪い松屋ユニフォームを身にまとったお兄さんが厨房に叫ぶ。そして待つこと少々。出てくるタイミングはしょうが焼き定食のような焼き系と一緒だ。

「お待たせいたしました」

ドンとカウンターに置かれたマーボナスドン。う、うーん。

真っ黒

それは四川風ともいえるほど全体が黒ずんだマーボナス丼だった。ナスは5〜6切れ。まあ、一本くらいは使ってんだろう。ここで一言。

ナスは色鮮やかな紫でなくてはならない(松屋減点1)

そして勇気を振り絞って最初の一口。



なんとも言えない不思議な味わい。とてもコクのある味噌を使っているようだ。いやしかし、んまい!とも思えない。でも、どこかで出会ったことのある味…。半分ほど食べてふと気が付いた。

カ、カレー?

一度そう思ってしまうと、何だかとってもカレーに思えて、おいしく食べることができた(ような気がする)。


ビバ!ナスカレー丼
(松屋+10点!)




いや、それでいいのか? 松屋よ。どうでもいいけど、相変わらずジャンクな味だった。若者風味だね。


...... 2001年 12月 07日 の日記 ......
■[ NO. 154 ] 曇り
2001/12/04
昨日の夜中、吉祥寺は深く濃い霧に包まれていた。電車から降りた僕の目に飛び込んできたのは、いつもとは全く違った風景。レースのカーテンを一枚隔てた向こうで、スケボーを楽しむいつもの連中。信号の色は薄くにじんでカキ氷のシロップを思わせる。休日は人でごったがえすサンロードは黄泉の国への一本道だ。

匂いをかいでみる。うっすらと水の匂いがした。

僕が冬が好きな理由は色々あるけれど、気候について言えば、空気が澄んでいるのと、雪が降ってくれることの2つがある。特に、雪がいい。白く被い尽くしてくれることで、見えなくていいもんが見えなくなる。そこから、町と町の境、県と県の境、国と国の境、そんな色んな境界線を消してくれるイメージが広がっていく。それは何だかとてもホッとする感覚なのだ。

そんな気持ちで、家の中でヌクヌクしてるのがいい。

僕はとっても寒がりで、もう3週間も前からモモヒキをはいている。上半身だって、西友で買った肌着をしっかり着込んでいる。今日なんて、真っ白なモモヒキだ。街でいい女に出会って、その人のマフラーか何かが僕の目の前で風に飛ばされて、よしんば僕がそれをうまくキャッチして、じゃ、お礼にお茶なんてどうですか、なんて言われて、気が付いたらアルコールも入っていて、いい気分になってホテルまで行けたとしても、ズボンとモモヒキを一気に脱げるかどうか自信がないから、私、今日はちょっとダメなんで、なんて捨てゼリフを残してとっとと逃げ帰るってな具合だ。初対面の女性に、真っ白なモモヒキ姿を堂々と見せられるほど、僕は突き抜けていません。

冬は人肌恋しいなんて言うけど、モモヒキはいてりゃいいじゃん、そんな気もしてしまう今日この頃だ。

とはいえ、吉祥寺は深い霧の中に包まれていた。ひょっとしたら、霧の向こうのほんの5メートル先に、戦渦の中のアフガンがあるかもしれないし、逮捕された野村サチヨが鼻クソほじりながら寝転んでるかもしれないし、緒川たまきが「私が悪かったの」なんて言いながら上目遣いで結婚を申し込んでくるかもしれない。そんなことをボーッと思いながらふと周りを見渡すと、辺りには何やら無数の塔らしいものが立っている。そしてその後ろで揺らめく影。僕はただならぬ雰囲気を感じて、そっと息を押し殺し、物陰に隠れた。ウォークマンをストップし、じっと耳を澄ませてみる。すると、遠くの方から聞き覚えのあるギターのフレーズが聞こえてきた。

♪ sometihng in the rain she knows…

少しかすれた声、抑揚を押し殺した歌い方。僕はハッとした。そして、その声は影と一緒になって僕の方にどんどん近づいてくる。怖がる必要はない、流れに身をまかせるんだ(♪turn off your mind and relax and fall down stream,it is not dying,it is not dying…)。僕の中で声が聞こえた。

目の前に現れたのはまぎれもなく、ジョージ・ハリスンだった。

彼はいつものように澄んだ瞳を潤ませながらギターを抱えて、「something」を歌っていた。その後ろには毛皮に身を包んだジョン・レノンが付き添っている。よく見るとジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリクス、ブライアン・ジョーンズも列にいる。

それは、音楽の神たちの行列だった。

僕も列に加わり、一緒になって歌った。7色の光、心地よいメロディー、極上のハーモニーに包まれる。いつしかボリュームは大きくなり、BEATLESの名曲「A Day In The Life」のエンディングのように、ピアノの音で唐突に終わりを告げた。行列は一瞬にして消え去り、あれほど濃密に立ち込めていた霧もかき消えた。

そこは、僕のアパートにほど近い墓場だった。

僕は狐につままれたような気分になって狼狽した。現実と非現実の境界が見えなくなっていた。その時にふと、10日ほど前にこの辺りでタヌキの親子を見かけたことを思い出した。僕とその親子は5分ほど立ち尽くして見詰め合っていたんだっけ…。突然、おかしな気分になって、クスクス笑いと一緒に幸せな感覚がこみ上げてきた。僕は無数の墓に向かって合掌して、「My Sweet Road」を歌いながら、ゆっくりとした足取りで家路についた。



2001/12/04に逝去された、ジョージ・ハリスン氏のご冥福を心からお祈りいたします。


...... 2001年 12月 08日 の日記 ......
■[ NO. 156 ] ぴーかん
大掃除
今日はそういえばジョンレノンの命日だ。

2,3年前まではジョンの曲を聴きながら喪に服してたような気がするが、最近はとんと御無沙汰。そして今年も気付いたら28時、命日はとっくに過ぎてました。もちろんNYではまだ8日ではあるけどさ。。。あああ、ダメ人間。あいすみませんジョン。来年はジョージの分と合わせて喪に服します。

そんなこんなで今日は今年最後の掃除をしました。
ん? 大晦日までまだ20日以上あるって?
うーむ。確かにおっしゃる通りなんだけど、もう忘年会やらクリスマス会やらジャイアン会やらでそれどころではないのだ。年末まで週末は掃除する暇全くなし。トホホ。

そんでもってパソコンも大掃除。アップしなきゃならない写真なんぞを整理し始めました。年内中には色々アップするので、関係ある方、しばしのお待ちをよろしくです。ではでは。


...... 2001年 12月 11日 の日記 ......
■[ NO. 157 ] ぴーかん
ふるさとをおもふ
青森は大雪だ。そりゃ年末の飛行機がガラガラになる訳だよ。この調子じゃ飛行場に絶対に着陸できまっせん。視界不良でロシアまで行きかねません。まあ、それはそれでアリなんだけど。

という訳で、この時期に思うのは帰省のこと。故郷のこと。雪かきに追われる親のこと。ふう…。

いや、何でまた人間は雪深いところにわざわざ住む必要があったんだろう? 何て根本を考えてしまうのだけど、盛岡発弘前行きのバスの窓から見える、雪に埋まった田んぼの風景や、晴天に映える雪を頂いた岩木山を思い浮かべると、心に温かい感情が湧くのもまた事実。

でも、こういった「郷愁」はその土地を離れた者にしか分からないはずで、ずっとそこに住んでいる者にとっては無縁の感情だろう。んじゃ何でそこに住み続けるの? 何て子どもみたいに繰り返す訳だけど、やっぱり人と人とのつながりとか、想い出とか、食べもんとかが、人と土地の絆を強くしてるんだろう。

東京には、東京で食べるからおいしい、とかいった、その土地に根付いた食べ物という意味での「食べ物」が少ないように思う。確かに何でも食べられるけど、どうしても、どこかから拝借してきて、キレイにして、はいどうぞ、なんていう、贋物感というか、インチキ臭さを感じてしまう。それが僕と東京の絆を弱くしているように思う。

いやまあ、近々、津軽の食いモン出してるお店に行ってみようかと思います。


...... 2001年 12月 12日 の日記 ......
■[ NO. 158 ] ぴーかん
アイドルウォッチャー初級サイトコ
友人に、イガワハルカのブレイクを予見してたことを誉められたので。
気を良くしてつらつらと書いてみますか。。。

時代が求めている女性は、
●人工的な美人⇒浜崎あゆみ・叶姉妹など
●美人⇒松雪泰子・水野美紀など
●身近な癒し系⇒松島奈々子・イガワハルカなどなど
に大別できると思うのよね。もちろんそれにオッパイがデカイかどうかなんつうオナペット要素が入ってくるわけだけど。

で、身近な癒し系は、どこか崩れていないといけないんですよ。

松島奈々子は鼻から口辺り、イガワハルカはアゴのライン、なんて風に崩れている訳です。

そこが隣にいそうなお姉さん感を出して、大衆に支持されるんです。

僕がアイドルを見る時の視点は、ブサイクカワイイ=個性的かどうか。人間、環境と化粧でどうにでも変わりますからね。単純に人工的な美人は誰が誰だか見分けがつかないんですよね。

とはいえ俺は緒川たまき一筋だけどね。


...... 2001年 12月 12日 の日記 ......
■[ NO. 159 ] ぴーかん
くたばり
futurefarmersの3「stimuli」から「texas drawl」を選ぶと、ブッシュの顔に落書きができるよ。

まあ、ビンラディンとブレアとフセインとコイズミ辺りが無いと整合性が取れないといえば取れないけど、俺は生理的にブッシュジュニアが好きになれない。あいつ、いじめられっ子顔なんだもんな。コンプレックスの塊だよ、多分。

小人が国策に関わる時、大事が起こる

とは誰の言葉だったっけか。つまり、そういうこと。


...... 2001年 12月 13日 の日記 ......
■[ NO. 164 ]
ゴミ
今日の東京地方は雨。なんていうと、フィッシュマンズ佐藤氏の歌声が聴こえてくる。

「東京地方に大雨が降りつづけて
 部屋の中に居続けることもあるさ」



それは置いておいて、近所のスーパーの弁当の話である。
ここのスーパーの弁当は、大きく分けて3つの価格帯に分かれているんだけど、その最下層、松竹梅でいえば梅コース、380円〜450円の弁当について。

きょう日、牛丼が250円で食える時代に、最下層市民とはいえ、上の値段を昼飯に払うのはちょっと勇気がいるけど、この梅コースのラインナップはそれを躊躇させないキテレツさだ。それを俺はゴミと呼んで愛食してる。
簡単に言うと、梅コースは、松・竹コースの弁当に入るべきオカズをご飯にぶっかけただけのものだ(笑)。


で、先日度肝を抜かれたのが
チキンマサラ丼
これ、ご飯の上に、妙に辛いインド豆カレーのペーストがかかってて、その上にフライドチキンが2本乗ってるという代物。見た目にもかなりエグイが、食べてビックリ。なんとしらたきが入っていた。しらたき入りカレー?。これ、ぜひ食していただきたい。赤いドロドロからサナダムシのようなしらたきがこんにちは。余りの珍しさに2回リピートしてしまいました。


そして
肉じゃが丼
まんまのネーミングにビックリだが、ご飯に肉じゃがをぶっかけただけのネコマンマである。おめえらはこれで十分だ。残飯でも食ってろ!ってなナチス弁当だ。思わずマゾ心がそそられる逸品。こいつを食らえば、家畜、もとい社畜気分を心の底から満喫できるはず。で、食った。…ヒジョーに不味かった。まあ、戦時中だし、配給制だから仕方ないね、って感じである。


で、今日は新メニュー
豚じゃがエスニック丼
ご飯の上に、豚のブロック肉とじゃがいもがゴロゴロゴロゴロ…。あまりのジャンクさに即買い。で、食った。いや、エスニック? はあ? ただの豚ジャガキムチの素炒めじゃん。まっずう。何だか風邪で調子が悪い胃腸に更なるダメージという感じでグーでした。


いや、他にも残飯3色盛りとか、何故か加賀郷土料理「じぶ煮」をモチーフにしたじぶ煮丼なんていうツワモノドモがひしめいているので、追って報告いたしやす。



ちゅうか、
こんな弁当に値段つけて売ってんじゃねえよっ!
責任者呼んでこいっ、ぐるああっ!!


逆ギレです、すんません。


...... 2001年 12月 13日 の日記 ......
■[ NO. 165 ]
All Apologies
すでにお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、ホームページの掲示板スペースタイトル、本来

LOUNGE

が正しいのですが、私、オープン時から

ROUNGE

と、のたもうておりました。
実はハナっから気付いていた方がほとんどかと思いますけんど、気付けなかった僕同様のアホウドモは、僕と一緒にちょこっと恥ずかしがってください。いや、僕かなり恥ずかしいです、はい。

あ、あとタイトル下に伝言板作りましたんで、よかったら書き込みよろしくです。はい。


...... 2001年 12月 14日 の日記 ......
■[ NO. 166 ] ぴーかん
ビンラディン
ビンラディン氏発言全文

亀屋倒産
亀屋には、小学校の頃よくお使いに行かされた記憶がある。そういう場所が無くなるのは寂しいけど、これもまた仕方の無いことだ。でも、1,300人の失業者はどうするんだろうか? みんなに良い正月が来ればいいのだけど。しかし、岩木山真っ黒だな。いや、真っ白か。


...... 2001年 12月 15日 の日記 ......
■[ NO. 167 ] 晴れのち曇り
元ユニコーン
いや、風呂上がりにドラム叩くもんじゃないね。。。全身筋肉痛&少々風邪気味。まあ、夜中の1時半から叩く方もどうかしてるとは思うけど、体調はサイアクです、お母様。でも、これからまた戦場(飲み屋)に出かけなくてはならないの。男はつらいよ


まあ、自分のドラムの下手さっぷりもさることながら、おととい吉祥寺は「ON AIR PLANET K」で観た元ユニコーンのギタリストテッシーのバンドも厳しかった。

何が一番きつかったかって、ヴォーカル。歳は同じ位orちょっと上かと思うんだけど、80年代をモロに引きずっているパフォーマンスに、下手な歌、と、んなこといちいち書いてもしょうがないんで、コレ位にしておきますけど、とにかく、観ていて具合が悪くなってしまった。

自分たちがとっても悪いバイブレーションを出しているのに、それに気付けないで、何だよ、今日の客ノリわりーなってな感じが、さらに追い打ちかけてました。はい。


でも、メインで観に行った東京60WATTSってバンドは、「ボ・ガンボス」に元「真心ブラザーズ」のYo-kingが入ったような感じの、とってもイカしたバンドでした。元気出ました、はい。


...... 2001年 12月 17日 の日記 ......
■[ NO. 168 ] 晴れのち曇り
バターおばさん
パスタ王国のあさは、
工場にでかけるひとたちで、
とってもごみごみしています。

みんな、
なにかにせかされるように、
あしばやに道をいそぎます。

とくに、
王国のちゅうしんに向かって、
西から東にまっすぐはしるでんしゃの中には、
みうごきが取れないくらいたくさんの
ひと、ひと、ひと。

でんしゃが右に左にゆれるたびに、
足をふんずけたり、ふんずけられたり。

ふだんはおだやかでやさしいひとも、
だんだんこころがトゲトゲして、
かおがまっかっかになります。

王国のちゅうしんにつくころには、
みんなまるで、
とってもおこりっぽいとうがらしさんや、
がんこでゆうずうのきかない
こしょうさんのように変わってしまいます。

そんなきぶんで工場にいくものですから、
工場のなかは、いつもどなり声やいざこざがたえません。
みんな、じぶんのことばかり考えるので、
工場でつくられるものも、
いつしかぎすぎすしたものになってしまいました。



そんなあるひ、
みんながかおをまっかっかにしてでんしゃにのっていると、
ふっくらしたおばさんが一人、でんしゃにのってきました。

おばさんのからだからは、
なんだかとってもいいにおいがしていました。

それは、とってもあまくて、やさしい、バターのにおいでした。

バターのにおいは、
どんどんでんしゃの中にたちこめていきました。

すると、どうでしょう。

それまでまっかっかだったひとたちのかおが、
みるみるおだやかになっていきました。

めいめいが、となりにいるひとのために、
ちからをこめていたひじをせばめたり、
大きくひろげていたしんぶんをたたんだりしはじめました。

こどものなきごえにイライラしていたひとたちも、
こどもにむかって、
やさしいほほえみをなげかけています。
こどもも、そんなくうきにあんしんしたのか、
ほっとしたように、ニコニコしはじめました。

でんしゃのなかは、
それまでのギュウギュウがウソのように、
ゆったりとおちついたばしょに変わりました。


みんなは、
それがバターのにおいのおかげだときがついていましたが、
においのもとのおばさんは、
そんなことにはきづきもしないで、
こんざつしたでんしゃに
ちょっとこまったようなかおをしながら、
ふきでるあせをハンカチでふいていました。


その日、工場では、どなり声はなく、
いざこざがおきることもありませんでした。


...... 2001年 12月 18日 の日記 ......
■[ NO. 169 ] 曇り
わだばなんになる?
昨日から、今更ながら司馬遼太郎さんの「北のまほろば」を読んでいる。以前から何度か友人に勧められていたものの、これといった出会いの機会がなかった。しかし、腹痛で会社を休んだ昨日、たまたま立ち寄った古本屋で邂逅を果たした。

自分のルーツが綴られたこの本の感想を、一言で語ることは恐らく無理だと思われるので、これから小出しにしていくことにする。


とはいえ、もう中盤も過ぎて、棟方志功のくだりになっているのだけど、ここで、自分の中の原風景ともいうべき、志功さんの作品の一つがありありと思い出されたのである。

それは、弘前市民なら誰でも知っているであろう「御鷹揚げの妃々達々」だ。この作品は、弘前市民会館の大緞帳として使われているため、ここで行われるイベントを観に来る人達は、否が応でも、このとてつもなく巨大な志功さんの作品と対峙することになる。

僕は幼い頃、いや、弘前を離れるまで、その巨大さも相まって、この絵をとてもおそれていたように思う。

画面一杯に配置された4人の女性の黒い肌と、むき出しの乳房、ひっくり返った顔、けたたましく叫ぶ奇妙な鳥。…原色の画面は、完全に理解の範囲を超えていた。それは、ある時は殺戮の風景であり、またある時は桃源郷の宴の風景であった。

しかし、今、おそれをこえて思う。
なんと豊かな作品と、幼い頃から過ごすことができたのだろうか、と。

物心がつく以前から、志功の作品に触れてきた、というのは、ちょっと得難い感覚なのではないだろうか? 実際、世の中を見渡してみても、こんな絵は、ちょっと無い。似たような作家を、僕の浅薄な知識の中から探し出すとすると、「太陽の塔」の岡本太郎さんが挙げられると思う。

ここ最近、岡本太郎さんが縄文土器の美術的価値を発見したことを知った辺りから、僕の中の岡本太郎熱はかなり高まっていたのだけど、それはもしかしたら、志功さんの作品を幼い頃からみていたことと、無関係ではないかもしれない。

とにかく、今改めて思うのだけど、志功さんの作品は、ちょっと凄い。ラスコーの壁画にあってもおかしくないし、ペルーの遺跡から発見されてもおかしくない。何というか、時代なんて軽く飛び越えて、人間の、というか宇宙の感動の中心をまっすぐに貫いている、そんな作品だと思う。

そして、そんな作品に、意識的にしろ、無意識的にしろ、日常的に接することができる弘前を、ちょっと誇らしく思ったりするのだ。


...... 2001年 12月 19日 の日記 ......
■[ NO. 170 ] ぴーかん
やるなっインテル
インテルの共同創業者、絶滅危機の動植物保護に史上最高額の寄付

いや、金持ちはこうあらねばね。ビル・ゲイツやらブッシュやら、もうたくさんという感じだけど、アメリカには良心がある。

かのブラック・ジャックだって、法外な手術費用は環境保護に使ってたんだぜ! ビバ! 間 黒男! …って、”くろお”はないよなあ、”くろお”。


...... 2001年 12月 20日 の日記 ......
■[ NO. 171 ] ぴーかん
恵比寿神社
昼飯ついでにちょっと散歩。

そしたら恵比寿神社で門松作りが始まってるじゃございませんか。
青竹を3本立てて、松で飾りつけ。
もう今年も終わりが見えてきたもんね。

べったら祭りといい、盆ダンスといい、ガーデンプレイスやらミルクやら代官山やらカフェやらがあっても、垢抜けきれない恵比寿が結構好きだ。


一方で、2001年は史上2番目の暑さだったようで。。。二酸化炭素がどうのこうの、と言いながら、爆弾をナンボもナンボも落としているのを黙ってみているんだよね…。

無力だねえ。


そしてWTCの火がようやく鎮火。死者も事件当時の発表より大分減って、何より。アフガンの火は飛び火する勢いだけれども。


...... 2001年 12月 21日 の日記 ......
■[ NO. 173 ]
HOTEL
久しぶりに旅行でもしたいな、なんて思いつつ、色々調べたんだけど、やっぱり今からの時期はどこも混んでますねえ。それでも去年は、四国一周旅行をしたけれど。

そして、貧乏なカップルに最適な宿泊施設、ラブホテルを検索しているうちに、SMホテルの殿堂、東麻布の『アルファイン』に遭遇!!


…こ、こいつはすげえ。


「101 火の鳥」から始まる、ここはこの世の果てか、桃源郷かと思わせる全26室をご覧あれ!

401 奴隷市場(!)
501 痴乱将軍(!!)
502 拷縛便器(!!!)

ご、ごーばくべんき! …ごーばくべんき!
すげー。何だかよく分からないけど、すげー。
熟れに熟れきった人妻を縛りつけ、浣腸を施し、苦痛にゆがむその表情をゆっくりと楽しむ拷縛便器!
上京したてのノータリン娘を逆さづりにして、自分の排泄物に頭を浸させる拷縛便器!

いや、ちょっと刺激つよすぎ(汗だく)。


そして最上階に位置する地獄の四天王は…

601 拷問地獄
602 羞恥破壊
603 巌窟王
604 狂い十字架

603と604。
一度入ったら2度と出てこられないだろうな。
いや、クリスマスどころじゃないね、これ。
世の中は広いっす、お母さん。


...... 2001年 12月 24日 の日記 ......
■[ NO. 174 ] 曇り
ハトヤ文庫
じんぐるべるぅじんぐるべるぅすずがなるぅ
きょうはたのしひくるすますぅぇい

という訳で、井の頭線吉祥寺駅を出たところにあるカレー屋「C&C」に入った俺は、自分へのクリスマスプレゼントとして、野菜カレーに「温玉」「コロッケ」を付けてあげた。いや、C&Cのカレーはココイチよりも美味い。これほんと。メリークリスマスディナー。ピース。

そして、そんな贅沢をしても腹が満たされなかった俺は、家で袋ラーメンを作るべく、近所のスーパーに卵を買いに行った。そこのスーパーは、1ダースの卵ケースをハサミで3等分して、4個入りのパックにして売っている強烈な店だ。


すると、いつもは灯りが点っていないはずの細い路地にボヤアッと白く光るものが見える。俺はいぶかしく思いながら、スーパーに行くのを後回しにして、恐る恐るその光に近づいて行った。すると、白く灯りが点った看板に、赤い毛筆体で文字が書かれているのが見えた。


貸本屋


「?」胸の内に、驚きとも喜びともつかない気持ちが沸き上がる。つ、ついに見つけた。貸本屋だ。しかも、こんな自宅の目と鼻の先に! 2年前に吉祥寺に越してからずっと、貸し本屋を探していた俺は、恐る恐る店の中を覗いてみた。薄暗い店内には、寂れた古本屋よろしく漫画本がうず高く積み重なっていて、その隙間の奥の暗がりに、頑固そうなジジイが一人、しかめっつらで本を読んでいるのが見えた。

うわっ、本物だ。そう直感した。

ガラガラッと引き戸を開けて中に入ると、古本独特の香りと、緊張感を含んだ静けさに包まれた。どうも、こういう頑固一徹系のお店は、経営者の縄張り意識が店の隅々まで行き渡っているのか、店主の死角にいてさえ、ビシビシと身体に緊張感が伝わってくる。暗がりのジジイは、こちらを見ていないようで、その実、髪の毛の先からつま先まで、じっくり観察しているのだ。こっちは、そんな緊張感をジジイに気取られないように、リラックスした趣で棚の上から下までをじっくりとなめ回す。ビビッたら負けだ。

いや、その蔵書たるや凄まじいもので、何十年も前に刊行されたものから、最近の人気コミックまでが幅広くカバーされている。しかも古い漫画は、今までに俺が一度も目にしたことがないようなものばかりだ。この中から、ジジイが満足するような漫画をチョイスして、上客として認められなければ借りる資格なし、といった具合。うへぇ、とんだ所に迷い込んじまったよ、と思いながらも、余裕綽々でジジイの前を通り過ぎる。

と、目の前に飛び込んできたのは、浦沢直樹の「モンスター」。2年前読みかけ途中だったことを思い出してホッとする瞬間。結局お前、こんなマニアックな店来て「モンスター」かよ! なんて自分突っ込みを入れつつも、何だか借りる大義名分ができた気がしてしまう。

「すみません」

とりあえず3冊ピックアップして、できるだけ落ち着いたトーンでジジイに声をかける。

「ぅあ?」

うわわっ、怪訝そうな顔をしたジジイと初めて目が合う。ファーストコンタクト。ジジイは明らかに不機嫌そうだ。

「これはどれくらいの期間借りられるんですか?」


「…あんた初めての人? 最初は身分証無いと貸せないよ」

ひーっ! 当たり前のことを言ってるのに迫力が違う。し、しかもこっちの質問に全然答えてないよ…。

んじゃ、いいです、なんつって帰ろうかな? とくじけそうになった瞬間、

「普通は一泊でしか貸してないよ。一冊一泊80円。延滞すると30円かかるよ」

と、ジジイ。む、むむぅ。こいつ、できる。ヤラせてくれそで絶対ヤラせないキャバクラ姉さん的手管だ。こっちの心理状態は完全に把握されている。

「え、営業時間は…?」

ほぼ、ドラえもんを呼びたいのび太状態になりながら、質問を重ねる。

「5時から11時まで」

な、なんと。昼はやってねえのかよ! ちゅうことは、ガキは出入り禁止って訳だ。俺は意を決して、免許証を乗せた3冊の「モンスター」を差し出しながら、「お願いします」の一言を発した。

途端、ジジイの対応が柔らかくなった。

「はい、じゃあこちらの紙にお名前とご住所、電話番号を書いてね。うちはコンピューターなんかが普及する前からずっと営業してるから、未だに手書きでね、こんなのを見ながらやってるんだよ」

見ると、黒ひもで束ねられたわら半紙の束が5つ6つ。しかも、差し出された紙は裏紙。あわわ、本物中の本物だ。ここは昭和の学校図書館か? とはいえ、合格の結果に涙を流しつつ、喜び勇んで鉛筆で名前を書き込む。オヤジは免許の内容を大学ノートに書き込みながら、最後に赤字で番号を振った。

「えーっと、サイトコさんは7022番になるのね。これ、覚えといてね。あ、忘れたら名前言ってもらったらすぐ分かるから。」

おいおいおい、会員証無しかよ。

「11時で閉めちゃうけど、夜中の1時位までだったらポストに突っ込んでおいてよ。その日に返したってことにしちゃうからさ。」

し、しちゃうからさって、ねえ。いや、いいんだけども。すると、「ガラガラガラッ」と若いお姉ちゃんが入ってきた。

「おじちゃん、ベルセルクの23巻返ってきたあ?」
「ん? ああ、その下に転がってるんじゃないかな?」
「え〜、ちょっと待って…あ、あった。じゃこれね」
「前払いにする? 後払いにする?」
「もちろん前払いで」

…感動。いや、いい。若いお姉ちゃんってのもいいし、その会話のテンポも、いい。



「じゃ、モンスター3冊、翌日返し予定で240円ね」

お金を払って外に出た俺は、吉祥寺が3倍くらい好きになっていた。


いやはや、これから頑固ジジイに投資するお金がムチャクチャ増えそうな予感である。こんなのはきっと、漫画喫茶には無いんだろ。清潔で、ユニクロで、客のスペースやペースを壊さない場所。そういうのは何だか、ウンザリなんである。


「ハトヤ文庫」。ふぅむ。こいつはサンタからの素敵な贈り物に違いない。

なるほど、クリスマスもやっぱり悪くないな、と思う今日この頃だ。


...... 2001年 12月 26日 の日記 ......
■[ NO. 175 ] 曇り
ハトヤ文庫2
林業に携わっている人たちの面白くてためになる話を聞きながら、俺はしたたか酔っ払っていた。いい話を聞いているときのサイトコは、とってもゴキゲンである。いつもの3倍は舌が回り、口数が多くなる。

珍しく、いつまでも話し続けていたいような気分だったが、昨日借りた「MONSTER」11、12、13巻を返さなければ、延滞金を30円も取られてしまう。俺はお別れの挨拶もそこそこに、急いで吉祥寺に向かったが、時既に遅し。ハトヤ文庫の営業終了時間の23時はとっくに過ぎてしまっていた。

それまでのゴキゲンさに水を差された気分だったが、その時、ジジイが俺に言った言葉をありありと思い出した。

「お店が閉まっててもポストに入れておけば大丈夫だから」

そうだ、そうだった。ハトヤ文庫はそんな良心的な貸本屋だったんだ。ジジイの頑固な見てくれに騙されちゃいけない。俺は再びゴキゲンになり、足取りも軽くアパートに向かった。

玄関に置いてあった「MONSTER」をサッと取り上げて、ハトヤ文庫へ直行する。「オヤジはこの本を夕方の5時に見つけるかもしれないけど、こうやって、できるだけ早く返す、という姿勢が大事なのだ。それが、見えないところで客と店主の良好な人間関係を作るのだ」などとロレツの回らない脳みそで、ウンチクをこねくる。

返却ポストは、シャッターについている新聞受けだった。あらら、思ったより小さいのね、と思いながら、俺はその小さな口に本を突っ込んでみた。しかし、その口は本当に単行本がギリギリ入る大きさで、かなり無理して押し込まないと、本が入っていかない。「あっれー、単行本より大きい本はどうすんだろーなー? これじゃ返せないじゃん。ちぇっ、手ぇ抜きやがって」と、ジジイの中途半端なやり方にちょっと腹を立てながら、3冊を全て滑り込ませた。明日になったらジジイに文句でも言ってやろう。ついでにパソコンも教えてやろう。カカカッ。

いい仕事を終えた俺は、すっきりした気分でアパートへ帰ろうとした。


と、その時。俺の頭上にあるはずの「ハトヤ文庫」の看板が、俺の視界の左上に見えた、気がした。


身体が固まって、背中に冷たい戦慄が走る。いや、まさかそんなはずはない。第一、そんなことは、あってはならないのだ。


思いきって顔を上げてみた。



「居酒屋 秋桜」



「いっ、いざかやしゅーおー???」

魂消た。


自分が見てしまった現実にクラクラしながら、そのまま視線を左にやると、確かに「ハトヤ文庫」の看板が。そして視線を下ろすと、B4版がラクラク入るようなでっかいポストが見えた。ガーン。大ショック。

俺は、俺は、居酒屋にマンガ本を一生懸命返していた訳だ。


やるな、俺。

さすが、俺。

大好き、俺(涙)。



ちゅ、ちゅうか、これからどうなっちまうんだ? 一体?


...... 2001年 12月 27日 の日記 ......
■[ NO. 176 ] 曇り
ハトヤ文庫3
22時55分、ハトヤ文庫の看板の灯りはすでに消えていて、道路からは床をほうきで掃いているジジイの姿が見えた。隣の「居酒屋 秋桜」にはこうこうと灯りが点り、にぎやかな笑い声が聞こえている。

あうあう、どうしよう。


…店の前に立つまでに、僕が立てていた仮説はこうだ。

1.「居酒屋 秋桜」の主は善人で、ハトヤ文庫開店前に返却ポストに返してくれているだろうから、僕は何事もなかったような顔をして、新しくマンガを借りることができる。

2.「居酒屋 秋桜」の主は悪人で、ポストに入っていたマンガをゴミ箱に捨ててしまう。本は2度と戻ってこない。ハトヤ文庫と僕の付き合いはここまで。

3.1と2の間で、秋桜とハトヤ文庫の主人は実は仲良し。ハトヤ文庫開店後に、秋桜の主人がハトヤ文庫の主人に本を渡し、ガッハッハと笑い合う。僕はちょっと恥ずかしい思いをするだけ。


結局、僕は2の可能性を捨てきれずに、看板の灯りが消えたハトヤ文庫に入ることにした。もしも2であれば、例え30円の延滞金とはいえ、気付いた頃には膨大な金額になっているに違いないのだ。


「す、すみません…」

「はい?」


どうやら、ジジイは僕の顔を覚えていないようだ。


「昨日、ポストに本を返したと思うんですけど、無事に返ってますでしょうか?」

ジジイの逆鱗に触れないように低姿勢で質問する。

「なんか、記憶が曖昧なんですよね…」


するとジジイ、ニタアっと笑うと、
「モンスターの人だね?」
ときた。

「は、はい。そうです。」

ジジイは、店中に響くようなデカイ声で「ガーハッハッハッ」と笑い始めた。

「あれ、隣の店のポストに入ってたよ。2人で、『よくあんな狭いところに入れてったね』って話してたんだよ」

「あ、や、やっぱりそうでしたか。なんか家に帰ってから不安になって…」

ちょっと卑屈かと思ったけど、まあ、しょうがない。非はこっちにあるのじゃ。悪気はなかったんだっつうことをできるだけ示すことにする。

「あははは、いや、大丈夫ですよ。きちんと戻ってきてます。隣の主人が『こんなの入ってますよ』ってね。ガーハッハッハ!」

おおぅ、受けてる受けてる。嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気分で、僕も「アハハハ」と笑うことにする。

でも、このままじゃ俺の負けだ。こっちも、客としての尊厳を保たねばならない。

「いや、もうあんなことしないんで、今日も借りていっていいですか?」

と、次につなげるキラーパス。

「あはは、ええ、もうどうぞ、どうぞ。」

通った! これはもう、ハート鷲掴みか?

「今までにこんなことって…」

「いやあ、無いね、初めて、初めて。ガハハッ」

その笑いから察するに、どうやら鷲掴んでいるらしい。

「いやあ、もうほんとにすみませんでした。これからはほんとに気を付けますんで。」

僕も結構ノリノリである。

「それじゃ、これ借りていきます。お休みなさい」

と、完全にペースを掴んで帰ろうとした刹那、



「酔っ払ってたんだろ?」



…バレバレ。



やるな、ジジイ。

さすが、ジジイ。

ちょっと好きかも、ジジイ(泣笑)。


ちゅ、ちゅうか、まあ、怒ってなかったからよしとしておこう。
そして今日もMONSTERを読みふけるサイトコであった。


inserted by FC2 system